本日の気になったニュースを経営の視点で読み解く「今日の朝刊」。本日は、2026年2月23日の日本経済新聞から、丸紅が国産牛の「おいしさ」にAIを活用した新指標を導入するというニュースを取り上げます。
今の時代、「業界で最高とされる品質」を追求したはずなのに、なぜか売上が伸び悩んでいる、あるいは「最高水準がもはや普通」というジレンマを抱えていませんか?
和牛の世界では、「A5ランクの和牛」が全体の2割弱からこの15年間で6割強になっているとこの記事では指摘しています。。このニュースには、スペック競争に疲弊しているすべての中小企業にとって、「眠っている需要」を掘り起こすためのヒントが詰まっています。ぜひ最後までご覧ください。
「サシ重視」の格付けから、AIによる「嗜好重視」の新指標へ
丸紅は、2026年度から消費者の属性(世代など)ごとに好まれる肉質をAIで分析し、国産牛の新しい「おいしさ」の指標をつくる構想を明らかにしました 。記事では以下のように紹介しています。
丸紅が国産牛の「おいしさ」について、新しい指標をつくる構想を進めている。2026年度から世代など属性ごとに好まれる肉質を人工知能(AI)で分析する。独自の指標を基に品種改良や飼料改善にもつなげる。「霜降り」の度合いで決まる従来の格付けに続くおいしさの目安を示すことで消費者の選択肢を広げ、国内畜産業の振興をめざす。
2026.2.24_日経新聞朝刊
背景には、これまでの業界基準と消費者の実態との大きな乖離がありました。
供給面では、霜降りの度合いを重視した品種改良の結果、「A5」ランクの割合は全体の6割にも達しています。一方で、国内牛肉消費量はこの5年間で10%減少しています。油の多い高価な肉よりも、健康や節約志向に合った赤身や値ごろ感を求める声が高まっていました。
「従来の格付け自体を否定しているわけではない」とした上で「様々な選択肢があってもよいのではないか」と話す。「高級飲食店やスーパーなど、それぞれの消費者に合った指標があってもいい」(若林氏)。新しい指標で消費者が牛肉を選ぶ機会を増やしていく。
2026.2.24_日経新聞朝刊
すでに茨城県のブランド和牛「煌(きらめき)」のように、サシの量ではなく「きめ細やかさ」や「脂の成分(オレイン酸)」を独自基準にする動きも出ており、通常の和牛より1割強高い価格で取引されるなどの成果を上げていると記事では紹介しています 。
業界の「当たり前」に埋もれた需要を掘り起こすには、顧客の「満足」を再定義せよ
この事例から学べる商売の本質は、「業界標準のモノサシ(格付け)」が、必ずしも「顧客の喜び」と一致しているとは限らないということです。
これらは体感的にも納得いくのではないでしょうか。私も若いころは霜降り肉は大好きでしたが、今では良質な赤身の方が好みです。そしてこれは一定の傾向を持っています。
効率化を求めると、業界は一つの評価基準(今回で言えばA5ランク)に収束しがちです。しかし、基準が一つしかない市場では、結局は規模の勝負や激しい価格競争に巻き込まれます。
「おいしさ」をサシの量という物理的な数値から、「誰が、どんなシーンで、いくらで食べたいか」という顧客体験へと再定義した瞬間に、今まで「売れない」と諦めていた市場が、魅力的なブルーオーシャンへと変わるのです。
例えば、今回の事例において、「歯切れのよい味の濃いおいしい赤身肉」という肉が指標でわかるならば、私はより多くのお金を支払って購入するでしょう。
自社の「価値基準」を疑う3つの視点
今回の記事から学べる、「A5ランクを作っているのに儲からない」という状況を打破するためのアクションです。ぜひ自社に応用してみて下さい。
自社独自の「煌」を見つける
業界で1番を目指すのではなく、特定のターゲットにとっての1番を目指す「ニッチトップ」への転換です。
自社の商品・サービスが、業界の一般的な評価基準(例:速さ、安さ、多機能)以外で、一部の熱狂的なファンに喜ばれている要素はないか探してください。茨城県がサシの量ではなく「小ザシ(きめ細かさ)」に着目したように、既存スペックの「深掘り」が独自のブランドを生みます 。
属性データから「逆算の導線」を作る
丸紅が「おいしい」を分析するように、様々なデータから顧客の潜在ニーズを特定しましょう。
最もわかりやすいのはPOSデータや会員データです。またwebの訪問データや流入キーワードや経路などからも特定可能です。例えば「40代女性は、実は機能性よりも『手触り』のページを長く見ている」といったようなことです。
属性ごとの関心事(インサイト)を抽出し、そのデータに基づき、Webサイトのメッセージを「A5ランク(最高級)」から「あなたのための1枚(最適解)」へと変更するだけで、成約率はぐっと上がるでしょう。
ポートフォリオによる「機会損失」の最小化
丸紅には直接関係ありませんが、以下のような内容も触れられていました。
スターゼンは鹿児島県の基幹工場で和牛の輸出に力を入れる。(中略)鶉橋正雄常務は国内では「(特に脂が多く)価格が高いロイン系の販売に苦慮している」と話す。
2026.2.24_日経新聞朝刊
海外では和牛の人気が高まっており、日本では供給過多のA5の霜降り肉の需要も旺盛だ。鹿児島工場はロイン系の大半を輸出し、モモなどは国内向けにするなどバランスを取っている。
スターゼンが和牛のロイン系(脂の多い部位)を海外輸出し、モモ(赤身)を国内へ回しているように、市場ごとに供給を最適化する考え方です。
自社の商品ラインナップが「特定の市場」に偏っていないかチェックしてみてください。既存市場が縮小しているなら、国内の別チャネルや海外販路へ振り分け、国内には需要の高い「実利的な商品」を投入する。このポートフォリオ管理が、資金繰りを安定させ、投資対効果(ROI)を最大化させます。
余談ですが、海外販路はハードルが高く思われますが、中小企業の海外展開もサポートが多く以前よりは容易になっています。
まとめ:お客様の笑顔をモノサシにしてみよう
丸紅の取り組みは、日本が誇る「和牛」という資産を守るために、あえて既存の格付け以外の道を作ろうとする挑戦です。
業界で「最高」とされるものが、お客様にとっての「最良」とは限りません。自社の強みを「業界のモノサシ」で測るのを一度やめて、お客様の表情から「新しいモノサシ」を創り出してみてください。
「もし、今の業界基準が明日から無くなるとしたら、あなたの商品は何で評価されたいですか?」
その答えの中に、まだ誰も手をつけていない「もったいない市場」が眠っていうるかもしれません。
本日は日経新聞の記事から、価値の再定義について考えてみました。ぜひ皆様の経営に役立ててください。
